2014年2月9日日曜日

見世物小屋のランダム・ウォーカー

屋根裏の散歩者 (角川ホラー文庫)
江戸川 乱歩
角川書店
売り上げランキング: 533,441


「屋根裏の散歩者」
「人間豹」
「押絵と旅する男」
「恐ろしき錯誤」

上記収録の江戸川乱歩短篇集。
友人に借りて初めて読みましたが、まぁ面白い。

この短篇集からの印象だけですけれど、
江戸川乱歩の語るお話には、
「非対称性とその転倒」が中心にあるような気がします。

「屋根裏の散歩者」での、
「屋根裏から覗く者/覗かれる者」の関係。

「人間豹」での、
「見世物/観客」の関係。

「押絵と旅する男」での、
「現実の男/絵の女」の関係。

「恐ろしき錯誤」での、
「知る者/知らない者」の関係。

それぞれの非対称で歪な関係によって起こる珍事と、
そうしてそれがふいに転倒されることで、
不確かであやふやな現実を印象付ける仕掛けになっています。

敷衍すれば、
これは作品と読者の非対称性の転倒可能性をも示唆するもので、
「押絵と旅する男」での作品の中に入り込んでしまう男に顕著ですが、
もしかしたら現実に(或いは自分に)起こり得るかもしれない、
ということを感じさせ、恐怖譚かくあるべし、といった趣です。


また、
おそらくは江戸川乱歩の特徴として挙げられている(であろう)文体が、
この面妖な世界観に、ぞっとするような真実味を与えてくれます。

作者が書いているというよりも、
謎の人物が語っているという体で、
それは云わば神話や民話などの語り部による口承に近く、
「文体」というよりも「語り口」と言ったほうがよいかもしれません。

口承は実体験ではありませんから、
とろこどころ不明瞭な部分があり、
全てが明らかになることがないが故に、
それがかえってリアリティを感じさせもします。

まぁ、
現実というのは常に虫食い状態ですからね。

そんなこんなで、
蓼食う虫も好き好きとは申しますが、
世にも奇妙な物語や都市伝説好き、
或いはエログロナンセンス好きにおすすめです。



余談ですが、
「江戸川乱歩」という筆名が、
エドガー・アラン・ポーのもじりだというのは有名ですけれど、
「乱歩」が英語で「ランダムウォーク」というのは、
何が起こるかわからない現実の不確実性を感じさせる、
彼の作品性にぴったりのネーミングだと思います。

ちなみに表題はこちら↓のもじり。

ウォール街のランダム・ウォーカー―株式投資の不滅の真理
バートン マルキール
日本経済新聞社
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1 件のコメント:

  1. amazonギフト券を進呈したくなりますね。

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